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その後30分の沈黙があり、彼は肩で息をしながら戻って来た。
心無しちょっとやつれて見えたのはきっと目の錯覚ではないだろう。――
「これ、能力辞典、ここから、選んで」
「えっと、お疲れ様です」
彼はドアに背中を預けて座りこんだ。
「嫁がね、年上だと色々あるんだよ・・・」
姉さん女房、怖いな・・・。
「数十年ご無沙汰だったし、逸る気持ちは解るんだけどさ」
「何があったかは聞きませんからね?」
「そうして、君が心やさしい青年でよかった」
俺は地面に座って能力辞典とやらをペラペラめくる。
見た事の無い文字が並んでいたが、何故か読めた。読めたと言うよりは勝手に頭に入ってくる感じで、何か変な感じだ。
「お、一つ目はこれで」
「ん?成程、これに目を付けるとは中々見どころがあるね」
全魔法習得、異世界に行くなら色々な魔法を使ってみたい。
魔力適正値があるのなら、これがあればきっと楽しいだろうと考えたのだ。
「それじゃ後二つだね」
「それじゃこれとこれで」
一つ目は超幸運、運のステータス値が高くなるらしい。
二つ目はステータス上昇値アップ、レベルが上がる時のステータスアップに補正が掛るらしい。
「君は一体何になるつもりだ?」
「何かにならなきゃいけないんですか?」
「いや、好きなように生きて良いと思うけど」
そうか、良かった。
魔王を倒せとか言われても俺には戦いの才能は無い。
『どうにかなるから大丈夫』とへらへら笑って生きて行きたいのだ。
「それじゃそろそろ異世界の方に行って貰うから、頑張ってね」
「何を頑張らせるつもりですか!?」
「そうだなぁ、退屈との戦い・・・かな?」
彼がそう言って手を振ると、一瞬光が走って、目を開ければ草原に立っていた。
ピリリリリと音が鳴った。
「スマホ使えるのかよ・・・」
『九重 巧翔』
知らない名前が表示されていた。
とりあえず、電話を取る。
「はい」
『あ、繋がった。さっき言い忘れたんだけど、勇者と魔王にはなるべく関わらないでね』
「理由を聞いても良いですか?」
『それは世界を、ちょ、今電話中だか・・・なにする・・・やめ』
電話はそこで切れた。
またいずれ、かかってくる事もあるだろう。
「とりあえず、どこだここ・・・」
右を向けば森、左を向けば広大な平原、どちらも遠くの方に山が見えた。
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