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「計算できる奴が居なかったのに、今までどうやって会計してたんだ?」
「そう考えると、怖いわねぇ」
「不正目的でわざと計算を間違えているのかもしれないが・・・」
不正は見つけ次第打ち首だ。
だが、能力上の問題で有れば辞職程度で済む。
と言う訳で、アリーに大臣を肩代わりして貰っている。
「大臣職なんて、私は死んでもごめんだわ」
「先輩奥さんとして、何か役職に付いた方が良いんじゃないか?」
因みにフィルは農産省の大臣に襲名している。
「私の役職は、国王陛下の秘書官だもの。私にきつく当たるとお仕事がたくさん増える事になるわよ?」
俺には夜のお仕事もあるだから、勘弁して欲しい。
夜のお仕事、そう聞いたら普通はいかがわしい事に想像が行くが、俺のお仕事はそんなに良い物じゃない。王の寝室に夜這を掛けてくる不届き者の撃退が主になる。
要するに、暗殺者の撃退だ。
普通は近衛兵とか城の警備兵の仕事なのだが、たまに運よく警備の網を抜け寝室に辿り着いてしまう者がいるのだ。
そんな奴等を寝ながら撃退するのが俺の夜の仕事。
まぁ、自滅してくれるから危害自体は無いんだけど、天井から落ちてきたり、窓から侵入しようとして窓ガラス割っちゃったり、兎に角俺が起きる程度に音を立ててくれるのだ。
挙げ句、音を立てても素早く殺して逃げれば大丈夫だろうと大胆に侵入し、結局何かしらの要因で自滅する。
一番酷いのは暖炉から侵入しようとして焼死、あまりの臭さに目が覚めた。
火を消す為に転げ回ったみたいなのだが、装備の何かと絨毯が絡まり、絨毯を巻き込んで身動きが取れなくなったのだろう。目が覚めた時に、簀巻きの焼死体が転がっていた。
それでも声を上げなかったのは、元々声が出せなかったのか、暗殺者としての矜持なのか・・・。
俺がそれを思い出して溜息を吐くとエルマは優しげにほほ笑んだ。
「急ぎの仕事だけ済ませれば、後はゆっくり仕事しても良いんじゃない?」
「仕事が嫌で溜息吐いた訳じゃないんだがな」
エルマと話しているとアラームの魔法がけたたましい音を立てた。
「侵入者よ、注意して・・・」
「おう」
腰の剣に手を添えるエルマを余所に、俺は書類と向き合った。
しかしてその暗殺者は、俺の目の前に、正確には机の上に落ちて来た。
バキッと音を立てて、天井を突き破り、紫檀製の執務机に背中を強かに打ちつけた。
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