汝、其を天命と知れ

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 静寂はいつも突然破られる。  人の生も然り。  平らかな水面に突然波紋が現れるように、一滴の雫が全てを狂わす元凶となる。  別の日。  再び訪れた大津の邸宅で。  まだ姿を見せない親友に痺れを切らした川島は。 「少しならいいだろう」  いつも温厚なその人が、どうしてその時は好奇心の赴くままに行動してしまったのか。  誰もいない時を見計らい、七星剣に手を伸ばす。  ゆっくりゆっくりと伸ばしていく。  そして手に取って。  鞘を抜き払った。  そこから一気にほとばしり出た、モノ。  それは光ではなく、(まった)き闇であった。  闇はひと息に彼を飲み込んだ。  そしてその体に入り込み、彼の全てを支配した。 「川島? 帰るのか」  挨拶もそこそこに帰って行った親友の後ろ姿を、彼は、この邸の主である大津は不思議そうに見送った。  そして剣は何事もなかったように、また元の棚に鎮座していた。
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