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七星剣を前に、大津皇子は泰然と佇んでいた。
謹慎の命を受けた翌日のことだった。
「私には結局覆す力などなかったのだ」
この神剣を上手く扱えなかった己の過ち。
「しかし後悔はしていない」
呟きながら鞘を抜く。
刀身は黒光りするだけで、なんらの力も感じない。
そう。
七星剣はその力を発揮する前に、彼の親友によって姿を晒し、神剣としての力を失っていたのだから。
「七星剣よ。その身に刻まれし、七つ星よ。私は己の人生に悔いはない」
この剣が我が元に来た時。
神の剣に勇気を得、夢にまで見た至高の御位は、いずれは自分に与えられるのだと。
川島に時ではないと言いながら、どこかに生まれた慢心。
それを、神剣は分かっていたのではないだろうか……。
「これが天命というものか」
川島を恨んでなどいない。
誰も恨んでいない。
全て、なるべくしてなったこと。
そして大津は。
七星剣を自らの胸に突き立てた。
これが、我が人生。
これが、我が天命………。
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