4 甘い囁きと、スイートなパティシエ

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――カチャッ 重厚な趣の木製のドアをしっかりと施錠し、上を見上げた。 字体や、(けやき)の木目にまでこだわった、自作の看板を。 『パティスリー eins(アインス)』。 『eins』は、ドイツ語で『壱』を意味する言葉。 店名をこれにすると告げた時、珍しくふんわりと微笑んでくれた人は、スイーツ嫌い。 『甘いモンは、この世で一番嫌いだ』と言い切ってしまう人。 でも、チカの作ったスイーツだけは黙って口にしてくれる、優しいひと。 「さて、急がなくちゃ。 どうせ、『遅ぇぞ』って凶悪なカオで文句言われるだろうけどね。ふふっ」 ちょっとイラつきながら、それでも自分を待っていてくれるだろう壱琉の姿を思い浮かべ、夜の街に駆け出した。 明日も、その先も。叶うならば、ずっと。 少しでもたくさん、壱琉と同じやり取りができたらいいなと思いながら―― ―Fin―
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