143人が本棚に入れています
本棚に追加
「伊織さん、コーヒーをどうぞ。
それと、もし甘いものが大丈夫なら、こちらも召し上がってください。
本日のお勧めの白桃のタルトです」
売れ残りを出すようで気が引けるけれど、自信作で本当にお勧め品なのだから、コーヒーに白桃タルトも添えてお出しした。
気に入っていただけるといいんだけど。
「あぁ、ありがとう。
実は今日、祥徳大病院の救急外来で応援勤務でね。今は、その帰り道なんだ。
かなり疲れてるから、甘いものは嬉しいよ」
「え? 祥徳大病院で応援勤務をされてるんですか?」
白桃タルトを嬉しそうにつつきながらの伊織の言葉に、思わず顔がほころんだ。
祥徳大学は、パティシエ修業のために二年で中退したとはいえ、自分の母校。
「実は、僕の友だちも、祥徳大病院のドクターなんですよ」
そして、大学の付属病院である祥徳大病院は、友人たちの勤務先でもあるのだから。
それまで、なんとなく距離を測りかねていた伊織との小さな接点を知り、一歩近づいて友人たちの話題を出した。
「うんうん、知ってるよぉ。
“あの子と、あの子”でしょ? よぉっく、知ってるー。
特に藤沢先生は、僕の勤務先にも研修医として勉強に来てるからね。僕、彼の指導医なんだよ」
「あ、そうなんですか」
へぇ。この人、慶太くんたちともお知り合いなのかぁ。
祥徳大病院で外科の研修医として勤務中の藤沢慶太は、三つ年下だが、壱琉や自分とは幼なじみの間柄。
伊織がその慶太の指導医なら、壱琉とどこかで繋がりが出来ていてもおかしくない。
最初のコメントを投稿しよう!