2 上機嫌な客

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「伊織さん、コーヒーをどうぞ。 それと、もし甘いものが大丈夫なら、こちらも召し上がってください。 本日のお勧めの白桃のタルトです」 売れ残りを出すようで気が引けるけれど、自信作で本当にお勧め品なのだから、コーヒーに白桃タルトも添えてお出しした。 気に入っていただけるといいんだけど。 「あぁ、ありがとう。 実は今日、祥徳(しょうとく)大病院の救急外来で応援勤務でね。今は、その帰り道なんだ。 かなり疲れてるから、甘いものは嬉しいよ」 「え? 祥徳大病院で応援勤務をされてるんですか?」 白桃タルトを嬉しそうにつつきながらの伊織の言葉に、思わず顔がほころんだ。 祥徳大学は、パティシエ修業のために二年で中退したとはいえ、自分の母校。 「実は、僕の友だちも、祥徳大病院のドクターなんですよ」 そして、大学の付属病院である祥徳大病院は、友人たちの勤務先でもあるのだから。 それまで、なんとなく距離を測りかねていた伊織との小さな接点を知り、一歩近づいて友人たちの話題を出した。 「うんうん、知ってるよぉ。 “あの子と、あの子”でしょ? よぉっく、知ってるー。 特に藤沢先生は、僕の勤務先にも研修医として勉強に来てるからね。僕、彼の指導医なんだよ」 「あ、そうなんですか」 へぇ。この人、慶太くんたちともお知り合いなのかぁ。 祥徳大病院で外科の研修医として勤務中の藤沢慶太(ふじさわ けいた)は、三つ年下だが、壱琉や自分とは幼なじみの間柄。 伊織がその慶太の指導医なら、壱琉とどこかで繋がりが出来ていてもおかしくない。
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