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「あっ、じゃあ、いっちゃんとお知り合いなのは、慶太くんとの縁で、ですか?」
……ん? あれ?
でも、なんで、今までいっちゃんの口からこの人の話題が出なかったんだろ。
慶太の名前を出して尋ねた後に、そう思ったけれど。
毒舌を吐き出す時以外は無駄口をきかない、つまり『面倒くせぇ。だりぃ』が口癖の省エネ主義の壱琉のことだ。
今まで自分がそのことを知らなかっただけなんだろうと、即、結論づけた。
「まぁね。藤沢先生とはイロイロあるからねぇ。
――ところで君、ほんとに27歳?」
『チカだけ仲間外れみたいで、ちょっとだけ悔しいな』
という内心の呟きに占拠されていた脳内に、軽妙な口調を少しだけ低めた伊織の問いかけが届いてきた。
「ハンチング風のコック帽から見え隠れしている、ふわふわの茶髪と、ぱっちりとした大きな鳶色の瞳。
ほんのりピンクのぷるぷる頬と、色白の肌。
君、ビジュアルもアリだねぇ。かなり僕好みだよ」
柔らかな物腰と瞳が一転、妖しく変化し、ひやりとした空気を纏っていく。
「ねぇ、秋田くん?」
ニタリと笑った伊織が、低く問いかけてきた。
「君、メスで切られるのと、薬で気持ち良くなるの、どっちが好き?」
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