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――シュッ!
無言で、伊織との隙間を薙いだ。
「……おっと!」
すると、伊織が後ろへと飛びすさり、同時にカチャンッという甲高い金属音が続けて二回響く。
「あなた、悪い人?」
金属音は、床に落ちたフォークと、もうひとつのモノが立てた音だ。
が、それには目もくれず、鋭い声を伊織に向けて放ち、その姿を睨み据えて構えをとる。
いわゆる戦闘態勢。
「チカ、いっちゃんに近づく悪い人は許さないよ?」
武道の試合以外では滅多に見せない殺気を込めた目線で、伊織を突き刺した。
「おぉぉ、危ないなぁ。
これはこれは、ものすごい殺気だねぇ」
感じ入ったような、のんびり口調が飛んでくる。
ほんの数瞬前、きらりと光る金属を自分に向けて繰り出してきたとは思えない、人好きのする笑顔から。
「ふふっ。君、さらに僕好みじゃないか。ゾクゾクするよ。
そんな素敵な君には、レア情報を提供しとかないといけないよねぇ」
けれど、その笑みは口元にニタリと張りついているだけ。
闇色の瞳からは、ほんのひと欠片ほどの感情すら読み取れない。
「はいはぁーい。では、レア情報公開!
実はぁ、僕が隠し持ってるメスは、1本だけじゃないんでぇーっす」
「……ふーん」
ふざけた口調での宣言に、瞬時に目が据わった。
危険人物、決定だ。
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