2 上機嫌な客

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けれど、戦闘態勢をとった時から、それは分かっていた。 ついさっき、咄嗟の判断でケーキ皿からフォークを取って払い落とさなければ、伊織が持っていたメスが自分の手首を切り裂いていたのだから。 「伊織さん? 念のため、もう一度言うね。 チカは、いっちゃんに近づく悪い人は許さない。 このまま、おとなしく店を出て行くか、ぶちのめされて放り出されるか。どっちか選んでよ」 すうっと目を細め、殺気をさらに濃くしながら低く恫喝(どうかつ)した。 そして、表情に出さずに高速で思考を巡らせる。 わぁぁ。こんな修羅場、ひっさしぶりだなぁ。 ウィーンでの修業中に、ごろつき10人に絡まれて以来かな? えーっと、日本の正当防衛って、どこまでアリだったっけ? うーん……ま、いっか。 さじ加減うっかり間違えて再起不能にしちゃっても、仕方ないよねっ。 だってメス持って、いっちゃんに会いに来るような相手だもん。 そんな人、野放しにしてちゃ駄目駄目っ。 二度といっちゃんに近づこうなんて考えが浮かばないように。 ここでチカがきっちりと! ギリギリっと! 血ヘド吐いても許さないくらい、ゴリッとシメ上げとくべきだと思うんだぁ。 だから、腕の一本や二本、内臓のひとつやふたつ、グチャっと潰れちゃっても、チカのせいじゃないよ。きっと。 うんうん。いいってことで決定ーっ!
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