2 上機嫌な客

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「ねぇ。どっちにするか、決めた? ヤるなら早くヤろうよ。どうせ、もう閉店なんだし」 ニヤニヤとした笑みを顔に張りつけるだけで一向に返答を寄越してこない伊織に、少し焦れて選択を促した。 ヤるなら、ササッと終わらせたい。 いっちゃんが戻ってくる前にチャチャっと決着つけてぇ。 それから、店内を片づけて明日の仕込みも終わらせとかないといけないしねっ。 「うふふーん。いいねぇ。 ホントいいよ、君。 ふわふわした愛らしい外見からは、とても想像できないねぇ。 まるで、切れ味鋭いナイフのようじゃないか」 うっとりとした声色が、店内に響く。 恍惚の表情とは、コレのことを指すのか。そう思った。 けれど、同時に、別の感想も浮かんでくるから困ってしまった。 伊織が自分を見つめる目は、単なるシリアルキラーのものじゃない。 むしろ、冷静な医者の目―― 「いや、違うな。君の本性を表現するのに、ナイフなんてチャチなものじゃ物足りない」 顎に指をあてがい、考え中だった伊織のアルカイックスマイルが、さらに深まる。 「……あぁ、そうだ。コレだ。 ねぇ秋田くん。僕、今の君にぴったりの形容を思いついたよ」 親に褒めてもらいたい時の子どものような笑顔が、ぱぁっと花開く。 「妖刀だ――――血まみれの、ね。ふふっ」 そして、うっとりと呟いた声は狂信的な耽溺に満ち、その嗜癖(しへき)の異常性を垣間(かいま)見せてきた。
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