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駄目だ。
この人、駄目だ。
やっぱり、いっちゃんには近づけたら駄目な人だ。
もう容赦なく徹底的にヤッちゃうつもりで一気に間合いを詰め、殺気を解放した。
その時――
――ガッシャーンッ! ガンッ!
店全体が揺れたかと思うほどのドアの開閉音と、よく分からない鈍い音。
「ぎゃっ!」
「ここで何ヤッてんだ! この、どクサレ医者がっ!」
――ガンッ、ガンッ!
「どきやがれっ!」
「痛っ! 痛い!」
それから、大好きな人の地響きのような罵声と伊織の悲鳴が響いた。
そして、ドアの外に立てかけてあったメニューボードで伊織を殴りつけていた長身の男が振り向き、その腕の中にきゅっと包み込まれた。
「落ち着け、チカ。もう大丈夫だ。
ほら、目ぇ瞑って深呼吸してみろ。
そしたら次に開けた時には、いつもの、ただただ可愛いだけのお前に戻ってる」
とろりと甘い、色めいた吐息を耳元に降らせて。
「お前には、どす黒い殺気なんか似合わない。
俺だけのための極上の笑顔を見せる天使に、早く戻れ」
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