2 上機嫌な客

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駄目だ。 この人、駄目だ。 やっぱり、いっちゃんには近づけたら駄目な人だ。 もう容赦なく徹底的にヤッちゃうつもりで一気に間合いを詰め、殺気を解放した。 その時―― ――ガッシャーンッ! ガンッ! 店全体が揺れたかと思うほどのドアの開閉音と、よく分からない鈍い音。 「ぎゃっ!」 「ここで何ヤッてんだ! この、どクサレ医者がっ!」 ――ガンッ、ガンッ! 「どきやがれっ!」 「痛っ! 痛い!」 それから、大好きな人の地響きのような罵声と伊織の悲鳴が響いた。 そして、ドアの外に立てかけてあったメニューボードで伊織を殴りつけていた長身の男が振り向き、その腕の中にきゅっと包み込まれた。 「落ち着け、チカ。もう大丈夫だ。 ほら、目ぇ瞑って深呼吸してみろ。 そしたら次に開けた時には、いつもの、ただただ可愛いだけのお前に戻ってる」 とろりと甘い、色めいた吐息を耳元に降らせて。 「お前には、どす黒い殺気なんか似合わない。 俺だけのための極上の笑顔を見せる天使に、早く戻れ」
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