2 上機嫌な客

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優しく優しく頭を撫でられ、言われた通り、その腕の中で目を閉じて、幾度か深呼吸を繰り返した。 すると不思議なことに、緊張しきっていた全身の神経が緩み、ぴりぴりと研ぎ澄まされていた殺気が霧散していくのを感じる。 そして、「よし、もういい。目ぇ開けてみろ」という壱琉の声でまぶたを持ち上げると、ぼんやりとした視界に一番に飛び込んできたのは、艶めかしい印象の薄い唇と、その横のホクロ。 「……いっちゃん?」 綺麗なカーブを描いているコレは、いっちゃんの唇だ。 ソレがすーっと近づいてきて、左目のすぐ下でチュッと音を立てた。 ……え? 続けて、右目のすぐ下でも同様のリップ音が。 えっ、えっ? 何? 何っていうか、キスされたってことくらい分かってるけど! でも、なんで? どうして、いっちゃんがチカのほっぺにキスなんかすんの? 「いっちゃん? あっ、あのっ……」 「落ち着いたなら、このまま少し待ってろ」 キスされた理由を尋ねようとしたのに、再び頬に唇を押しつけてきた相手によって、それは封じられた。 そして、ふっと目元だけを緩めたその人は、あっさり背中を向けてしまう。 「おい! いつまで泣き真似の芝居してんだ!」 「痛いよう。宮城先生、ひどぉーい」 「甘えた声もやめろ。気持ち悪い! 鬱陶しい!」 密やかな甘さを、とんでもなく凶悪なオーラに変えて。 「アンタ、なんでココに居る? 俺は、『コイツの店には来んな』っつったよな?」 ……え?
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