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優しく優しく頭を撫でられ、言われた通り、その腕の中で目を閉じて、幾度か深呼吸を繰り返した。
すると不思議なことに、緊張しきっていた全身の神経が緩み、ぴりぴりと研ぎ澄まされていた殺気が霧散していくのを感じる。
そして、「よし、もういい。目ぇ開けてみろ」という壱琉の声でまぶたを持ち上げると、ぼんやりとした視界に一番に飛び込んできたのは、艶めかしい印象の薄い唇と、その横のホクロ。
「……いっちゃん?」
綺麗なカーブを描いているコレは、いっちゃんの唇だ。
ソレがすーっと近づいてきて、左目のすぐ下でチュッと音を立てた。
……え?
続けて、右目のすぐ下でも同様のリップ音が。
えっ、えっ? 何?
何っていうか、キスされたってことくらい分かってるけど!
でも、なんで?
どうして、いっちゃんがチカのほっぺにキスなんかすんの?
「いっちゃん? あっ、あのっ……」
「落ち着いたなら、このまま少し待ってろ」
キスされた理由を尋ねようとしたのに、再び頬に唇を押しつけてきた相手によって、それは封じられた。
そして、ふっと目元だけを緩めたその人は、あっさり背中を向けてしまう。
「おい! いつまで泣き真似の芝居してんだ!」
「痛いよう。宮城先生、ひどぉーい」
「甘えた声もやめろ。気持ち悪い! 鬱陶しい!」
密やかな甘さを、とんでもなく凶悪なオーラに変えて。
「アンタ、なんでココに居る?
俺は、『コイツの店には来んな』っつったよな?」
……え?
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