1 番犬は、不機嫌

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「――もうっ! いっちゃんってば、ほんとに人騒がせなんだから!」 木目調の壁と床、落ち着いた欧州風のレトロな店内に、自分の喚き声が響いていく。 「チカがどんだけ驚いて心配したか、わかってんのっ?」 店内に流れるオルゴールのクラシック曲を台無しにしてると分かってるけど、止められない。 店の隅に(しつら)えられた丸テーブルに片肘をつき、だるそうにしている男に向けて、突き刺すようにビンビンと放ち続けた。 「……あー、うっせ。 もうちょいボリューム落とせよ。頭痛ぇ」 それに対して、低くこもった声が、唸るように返ってきた。 イートイン用のこじんまりとしたテーブルのせいか、それとも相手がかなりの高身長のせいなのか、テーブルから柄悪く足がはみ出している。 「……チッ」 吐き捨てるような舌打ちまで聞こえてきた。 サラサラの黒髪がかかる黒縁眼鏡から、(はす)に構えた鋭い視線が向けられてくる。 控えめに見ても、かなり機嫌が悪いようだ。
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