1 番犬は、不機嫌

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* 「――いっちゃーん。コーヒーのお代わりを……って、え? 寝てたの? いつの間に?」 仕込みの段取りをほぼ終え、とっくに飲み干しただろうコーヒーのお代わりを持ってくれば。 仕事の資料を読んでるんだとばっかり思ってた相手は、本を片手に爆睡中だった。 「あー、頭に血が上ってて、すっかり忘れてたよ。 いっちゃんってば、どう見てもバッチリ起きてそうな体勢で爆睡できる特異体質だったよねぇ。そういえば」 目の前の壱琉(いちる)の体勢にガクッと脱力しながら、その前のテーブルにコーヒーのトレイを置いた。 「ふふっ。そんで、身長が高すぎるのも、こういう時は困りものなんだよね」 イートイン用の小ぶりなテーブルセットに185センチの長身をおさめ、姿勢良く壁にもたれてる姿は、かなり窮屈そうに見える。 実際、組んだ足がテーブルから思いっきりはみ出してるし。 「さっきは、だるそうに座ってたから柄の悪いはみ出し方してたけど、こうして座ってる姿は撮影中のモデルさんにしか見えないんだから、罪作りだよねー」 起きてる時は危険な印象ばかりが際立つ顔立ちは、目を閉じている今は、整いすぎるほどに整っており、その端麗な容姿に溜め息しか出ない。 ルネサンス美術の最高傑作みたいで、ずっと眺めていられる。 というか、独り占めして、ずっと眺めていたい。
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