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「いっちゃーん。眠いなら、もう家に帰りなよ。疲れてるんでしょ?」
でも、このままじゃ身体に良くない。
手に持ってる本をそうっと取り上げつつ、声をかけてみた。
ほんとは、わざわざ開店祝いに会いに来てくれたのがすごく嬉しいから帰ってほしくはないけど、この人の体調管理のほうが優先だ。
「……ん……チカ?」
「あ、起きた? もう帰って、お家でゆっくり寝てよ。タクシー呼ぼうか?」
「俺、寝てたのか……いや、閉店までここに居る。
帰る時は、お前と一緒だ」
「……え?」
起き抜けのとろんと色っぽい瞳で見つめられながら言われた言葉に、一気に顔が赤くなった。
どどどっ、どうしたの?
いっちゃんが、なんか甘いよ?
あの、とんでもない毒舌を凶悪な表情で言い切っちゃういっちゃんが、なんかむず痒い雰囲気プンプンで、優しいこと言っちゃってるよ?
どうしよう。チカ、どうしたら……!
「つうことで、チカ。わりぃけど、腹減ったから朝飯用に出前取ってくれ。
卵サンドでいいから。あ、分かってるだろうが、卵はちゃんと焼いたヤツな。
コーヒーは、お前が淹れたのでいい」
「……っ! なっ、何言ってんの?
ここは自宅じゃないんだよ。パティスリーのイートインで、何、出前食べようとしてんのっ?
卵サンド食べたいなら、お向かいの喫茶店まで歩いていきなよ! いっちゃんの馬鹿ぁ!」
一時間前と同様、壱琉に向けた自分の二度めの罵倒の声が、店内に響き渡った。
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