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しかし、結局――
思いっきり怒鳴りつけてみたものの、この人にとことん甘い自分のほうが折れて、向かいの喫茶店に頼んで卵サンドを出前してもらい、一緒に食べているところだ。
「で? その本、次の新作用の資料なの?」
テーブルに積まれた数冊の本。
サンドイッチを食べてる最中の壱琉の前にある、さっきから気になっていたそれについて尋ねてみた。
開店までにはまだ余裕があるから、少しだけでも壱琉とのお喋りタイムを満喫したい。
壱琉は、普段はこの上ないほどの無愛想。
さらに、人を人とも思わない不遜な態度で繰り出す毒舌とで、本来なら作らなくてもいいはずの敵を作りやすいタイプだ。
そんな彼の職業は、小説家。
しかも、著書のジャンルはラノベファンタジーだったりする。
時空を越えた転生恋愛ものやら、魔法世界のドタバタラブコメ。
腐女子な美貌の王女が滅亡した王国を再建する王道逆ハーものやらを、ぶすっとした人を寄せつけない無表情でドンドコ書いちゃって、それが出版のたびに増刷。
つまり、結構売れちゃってる。
いわゆる、人気作家というヤツだ。
ペンネームは、宮城京。
本名の宮城壱琉の『壱』からかけ離れた数字の単位なら何でもいいという、ごくごく安直な理由でテキトーにつけられたペンネームである。
「えーと、『ギリシャ神話集』に『幻獣辞典』、それからヘシオドスの『神統記』?
ギリシャ神話に出てくる幻獣?
いっちゃん、何を調べてんの?」
「ケルベロスだ」
「ケルベロス? へぇ、面白そう! ちょっと読んでもいい?」
が、ペンネームはテキトーでも、こと創作に関してはいっさいの妥協を許さない。
手間暇を惜しまず、周到な準備がモットーの壱琉である。
それを知っているから、彼が次回作のために集めた資料の内容はとても気になる。
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