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「えーと?
『ケルベロスは冥府の入り口を守護する、番犬である。
冥界から逃げ出そうとする死者、冥界へ侵入する生者を捕らえ、貪り食う怪物として伝えられる』
ふんふん、なるほどー。
貪り食っちゃうんだー。それで?
『〈三つの頭を持つ犬〉と呼ばれ、その姿は、竜の尾と蛇のたてがみを持つ巨大な犬。
三つの頭が交代で眠るが、音楽を聴くと全ての頭が眠ってしまう』
へぇー、三つが交代で寝るなんて器用なんだねぇ。それから?
『竪琴の名手であるオルフェウスが、蛇に咬まれて死んだ妻エウリュディケを追って冥界まで行った時、ケルベロスはオルフェウスの竪琴の美しい音色に酔い、眠らされている』
あっ! チカ、この話、知ってるー。これ、ギリシャ神話だよね。
これ読んだ小学生のチカ、せつない結末に泣いたよ。
ん? まだ解説あるの? えーとぉ……。
『黒い双頭の犬の怪物、オルトロスとは兄弟である』
ふーん、三つの首の犬と、二つの首を持つ犬が兄弟なんだね。どっちがお兄ちゃんなんだろ?
『また、ケルベロスは甘いものに目がなく、蜂蜜と芥子の粉を練って焼いた菓子を与えれば、それを食べている間に目の前を難なく通過することが出来る』
わぁお! スイーツ好きの怪物なんだ!
可愛いーっ! いっちゃんみたーい!」
「あ? ふざけんな。
俺は、甘いモンがこの世で一番嫌いだ。つか、怪物に例えんな」
「ちぇっ、いっちゃんのケチ。ここは流れに乗ってくれるトコでしょ? ほんと、ノリが悪いなぁ。
ま、いっか。ところで、サンドイッチ美味しかった?」
「味? 別に普通。お前が作ったわけじゃねぇし」
「……っ」
食後のコーヒーを口にしながら無表情で淡々と言われた感想に、思いがけず顔が火照った。
チカが作ったサンドイッチなら旨いのに、と言われたも同然だからだ。
スイーツが苦手なのに店に来てくれることと合わせて、嬉しい赤面が止まらない。
もうもう! いっちゃんってば、こういうトコがずるいんだから。
こういうことをサラッと天然で言ってのけたりするから、チカの『大好き』が止まらなくなっちゃうんだよ。
もう、ほんと、ずるいっ!
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