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雪の降る夜はあなたと二人で
特有の優しくて甘いにおいが部屋に漂う。一口味見をして、京子はソファーに座っている孝文に声をかけた。
「できたよ」
「ありがとう、いただくよ」
向かい合って座ると、二人は「いただきます」と声を合わせた。
窓の外では深々と雪が降り続いている。
「この分だと明日は積もるかもしれないね」
「ホントね。珍しい。風邪、引かないでね」
「これを食べてるから大丈夫だよ」
そう言って、孝文は京子の作ってくれたシチューを口に運ぶ。
「うん、美味しい」
「よかった。今日の隠し味、分かる?」
「んー、ヨーグルトかな?」
「残念、バナナよ」
「バナナかー。どうりでいつもより甘みが強いと思ったよ」
京子もシチューを口に運ぶ。確かにいつもより甘い気がするが、これはこれで美味しい。
目の前で頬張る孝文を見て、幸せな気分になる。
雪の降る夜は、シチューにしよう。
そう孝文が言い出したのは結婚して最初の冬を迎えた時のことだった。 カレーの日、なんて言葉はよく耳にするけれど、シチューの日は聞いたことがない。
不思議に思ったけれど、二人の間だけの約束事――というのがあの頃の京子には嬉しかった。
だからあの日から三年がたった今でも、雪の降る夜は、例え晩御飯の準備をしていたとしても、必ずシチューにする。食材を捨てることになったとしても。
「ふふ」
「どうしたんだい?」
「ううん、なんでもないの。美味しいわ、シチュー」
「そうだね、二人で食べると格別だね」
「また、二人で食べましょう」
「ああ、雪の降る夜に、シチューを」
顔を見合わせて微笑み合う。
幸せとはきっとこういうことをいうのだと、京子は甘いシチューを食べながらほくそ笑んだ。
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