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――ねぇ、お話しましょ。
顔を覗き込むように少女が声を掛けると、下段の雪玉にささった木の枝がふるふると上下に揺れた。
少女は嬉しさのあまりその雪だるまに抱きついた。そんな少女のことを球体の胴と棒状の腕がしっかりと受け止める。
雪のはずなのに、少女はそこにぬくもりを感じた。
――ここら辺で雪が降るのはめずらしいわね。
少女は雪だるまの横に腰を下ろして、両足を伸ばした。足の裏を雪の冷たい感覚が包み込む。その感覚が堪らなくて、少女は両方の掌を雪にべったりとくっつけた。少女の体温は雪と大して変わらない。なので雪が溶けることも、少女の手がかじかむこともない。
地面を覆う白はそこまで厚くなく、指先で雪をなぞっただけでもその下の土が顔を出しそうだ。
――きっと次に太陽が昇ったら溶けてしまうでしょうね。
雪だるまに語りかける少女の吐息は白くはならない。
悲しげに少女が俯くと、背をさすられた。雪だるまがこちらを見ながら、棒状の口の端を僅かに上に上げた。
――ありがとう、優しいのね。
少女と雪だるまが顔を見合わせて笑っていると、ぽすんと柔らかい何かが背に当たった。それは少女に当たると、少女の背を滑るようにぽろぽろと壊れた。
――なにかしら。
振り返ると、今度は右側から何かが飛んできた。感触は先ほどのものと変わらない。優しく、柔らかい。
少女はきゃ、と小さく驚きの悲鳴をあげつつも、その顔に無邪気な笑みを浮かべる。
――やったわねー?
振り返ると別の場所に作られていた雪だるま達が並んでいた。容赦なくその中の1人が再び雪玉を少女に投げる。
顔にかかった雪の粉を両手でぱさぱさと払っていると、突き放すように背を軽く押された。
――なに言ってるの、あなたもいっしょなの!
少し怒ったような顔をした少女は雪だるまの手を引き、他の雪だるま達と合流した。
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