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吐き気を覚えていると、携帯電話が振動した。アプリが友人たちとのグループチャットに新メッセージが届いたのを報せる。
『今日、雪で電車停まってたのに出勤したよー辛すぎ!』
銀行に勤める友人が嘆いていた。
『うちも。仕事がたっぷりあるからって、こんな時くらい休ませてほしいよね。給料変わらないんだから』
企業の正社員の友人が愚痴っていた。
『みんなお疲れー。こっちは満喫中です!』
先月結婚して、海外に新婚旅行中の友人が、写真をたくさん送ってきた。
『ホテルのディナーやばい。日本円で一食が三万円だって。贅沢ー!』
伯母の言うところの『真人間』な友人たちが、楽しそうに大変そうに、会話を交わす。
その画面が妙にぼやけていた。
見るからに豪華な食事の写真と、台所に置きっぱなしの塩ラーメンを見る。――見比べる。
「……何で私には、期限切れのラーメンしか無いんだ……」
コタツのせいでじんわりと汗をかいて、身体中がベタベタだ。
昨日は入浴していない。冬場は節約のために二日に一度なのだが、昨日は原稿で頭がいっぱいだった。頭がかゆい。髪がベタつく。部屋が汚い。おなかが空いた。でもアレは食べたくない。
潤みかけた視界をごまかすように、園美は着古した部屋着の袖を目元に押しつけて、寝転んだ。
――掃除しなくては。
――入浴しなくては。
――食事しなくては。
――新しい漫画を、考えなくては。
頭では理解している。けれど身体が動かない。
(……もう、どうでもいいや)
捨て鉢になって、園美は目を閉じた。このまま眠るつもりだった。
その時だ。
何か重いものが落ちる音と、誰かの悲鳴が窓の外から飛んできた。
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