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思わず飛び起きて窓を開けた。真っ暗な中、雪が深々と降りしきる。
何てことはない。雪の塊が屋根から滑り落ち、驚いたオッサンが転んで悲鳴を上げただけだ。
オッサンは連れに助けられ、愉快そうに笑っていた。
「何だ……」
安堵して、窓を閉める。
その刹那、ギクリ、と全身が強ばった。
暗いせいで窓ガラスが鏡のようになり、園美の顔をくっきりと映し出していた。
「……何じゃこの顔……」
肌荒れがひどい。唇もガサガサだ。クマも濃いし髪もボサボサ。
何より――瞳に光がない。
実に情けなく、不細工な、幸せとかそういうものと縁遠い自分の顔。
窓ガラスに額をくっつけ、しばし頭を冷やした。
すきま風で身体が冷えたが、園美はコタツに戻らなかった。
すっくと立ち上がり、台所に向かい、蛇口をひねって計量カップに水を注ぐ。
「えーと、確か」
以前、ネットで見たレシピの詳細を記憶の彼方から掘り起こした。
「水が百mlでトマトジュースが四百……缶ふたつ分で丁度だな。ナイス」
片手鍋に水と、賞味期限切れのトマトジュースをどぼどぼ入れ、火にかける。
芯だけのキャベツを適当に切って入れる。
少し考えて、おつまみのドライソーセージも追加。肉っ気が欲しい。肉っぽいものを食わせろ。
完全に沸騰してから、賞味期限切れの塩ラーメンの麺を入れる。
ぐつぐつ煮込むと、ふわんとトマトの甘いような酸っぱいような湯気が立ち込める。
麺をほぐして、いったん火を止めて粉末スープを投入。馴染み深い塩ラーメンのかぐわしい香りが漂い、おなかがぐぅと鳴った。
再び煮込む。塩味のトマトスープは、やがてマグマのような気泡を浮かべた。
トマト料理に合うそうなので、賞味期限切れバジルとオレガノも入れる。
すると、なんということでしょう。空気が実に爽やかなものに変わった。
「へぇ、スパイスってこんな匂いすんだな」
麺が程よい固さに仕上がり、火を止める。
鍋のまま食べようとしたが、ふと立ち止まって、棚から白い丼を取り出し、移した。インスタントラーメンをちゃんと器で食べるのは久しぶりだった。
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