賞味期限切れてるけど

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 最後のひと匙までおいしく頂けた。 「あーうまかったぁー! ごちそーさまっした!」  米粒ひとつ残っていない丼に、スプーンを落とす。  腹が満たされて、園美は満面の笑みで寝転んだ。 「うははー思いつきでトマトラーメンにしたけど大正解! 死ぬほどうまかった! 偉いぞ自分! よくいつものラーメンじゃなくてひと手間加えた一品にした!」  トマトラーメンへの絶賛と自画自賛が止まらない。 「やっぱりこういうところにセンスって出るよなー! まぁほとんど賞味期限切れてんだけどな!」  あっはっは、と独りで笑い転げる。満腹と自分グッジョブへの喜びで、テンションは最高潮だ。 「最高だ、賞味期限切れてるけど――って、何回言うんだ私は」  ははは、とまた笑う。  ……その声がふと、止まった。  天井をぼんやりと見つめる。  園美の声が途切れれば、雪に覆われた夜は静まり返る。  窓の外から木枯らしが聞こえてくる。  それに紛れるように、様々な声が、頭の中だけで響いた。  担当編集の見島の申し訳なさそうな声。  お節介な伯母の畳みかけるような声。  仕事があって大変そうな友人の声。  ゴージャスな料理にはしゃぐ友人の声。  それらは雪のように、園美の上に降り積もった。 「……切れてねーよ、賞味期限……」  そう『誰か』に向けて言い返すと、身体と心が求めるままに、園美は涙を流した。  三分ほど泣いて、熊の動きでのっそり起き上がる。  ティッシュで鼻をかみ、ベタつく頭をぼりぼりと掻いた。  ため息のような、深呼吸のような、吐息をひとつ落とした。  窓の外は真っ暗だった。だが、ガラスに映る園美の顔は、暗さとは無縁だった。 「さーてと。掃除して風呂入って、ちゃんと布団で寝て。  ――また漫画描きますかぁ」  了
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