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窓の外は極寒だった。
築三十年の安アパートは底冷えし、閉じた窓の隙間からも冷たい風が侵入してくる。
いい加減修理しないと死ぬな、と思いながら、佐久間(さくま)園美(そのみ)は電話をかける。
「お疲れ様です、園田(そのだ)です」
『園田』は園美のペンネームだ。そして相手は、取引先の出版社の担当編集・見島(みしま)だ。
「園田さん……お疲れ様です」
見島の固く沈んだ声に、園美は予感した。……また、駄目だったか。
「預かってた新作の企画書ですが……申し訳ありません。一度会議にかけたのですが、掲載の運びにはなりませんでした」
覚悟は決めていたが、それでもその言葉は氷の針のように突き刺さる。頭皮が粟立ち、背中に冷たい汗が流れる。
「僕の力が足りませんで。申し訳ないです」
いえ、と園美は返事をした。謝ってもらってもどうにもならない。
また駄目だった。新作の企画はボツになった。
その現実は、変わらない。
「でも、まだ園田さんは望みがあると思うんです。まだ若いですし」
(……若くねぇよ、もう二十五だよ)
「だからよかったら、また企画の提案があったら連絡してください!」
殊更明るく告げる見島に、園美はうまく返事ができなかった。「はい」「ありがとうございます」しか言えなかった気がする。
電話を切って、コタツの天板に携帯電話を落とし、園美は後ろに倒れ込んだ。隙間風が火照った頬を撫でる。
シミだらけの天井。古い電灯。姿勢を変えると、漫画雑誌や単行本、資料集などで散らかった六畳一間が目に入る。
冷たく澱んだ空気の中で、園美はぽつりと呟いた。
「……自信、あったんだけどな」
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