1人が本棚に入れています
本棚に追加
佐久間園美はデビュー七年目の漫画家だ。
高校在学中に青年向け漫画雑誌の賞をもらって、鳴り物入りとまではいかないが、そこそこ嘱望されてデビューを果たした。
その時は嬉しかった。子どもの頃からの夢が叶った、これで自分も、憧れの『漫画家』の仲間入りができたと思った。未来は明るく開かれていると信じて疑わなかった――が。
「覚悟はしてたけど、こんなに難しいものなんてなぁー……」
七年間で連載は三回。いずれもアンケートが振るわず、打ち切りで終わった。
読み切りを雑誌に掲載された回数は数えるほど。 単行本を出版した回数も片手で足りる。
そして年収は人に言ったら驚かれる。世間からは、まだまだ漫画家は儲かる職業だと思われているようだ。
決して楽ではない、金に成る仕事ではないと分かっていた。
デビュー時に通っていた漫画家育成コースのある高校の講師陣から、再三言われた。生半可な道ではない、漫画家に夢を見ながら業界に飛び込むなと念を押された。
それを充分理解したつもりだった。その上で、『漫画で生活できる一握り』になると鼻息荒くしていたのだ――が。
「認識が甘かった……」
家賃の安さだけが取り柄の、狭く古いアパート。室温は外気温と変わらず、暖房はコタツだけ。腰に悪いと分かっちゃいるが机は買えない&置けないので卓袱台で作業している。
そして現在、作品の掲載予定もない、典型的な『明日をも知れぬ漫画家』の我が身。
「こんなはずじゃなかったんだけどなーあ」
言葉にするととんでもなく情けないが、そう思うのだから仕方がない。
とことん考えがヌルかった十代の自分を省みると、説教したい気持ちがわく。せめて貯金しとけよな、と釘をぶっ刺したい。
最初のコメントを投稿しよう!