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何も言えなかった。
その気力が無かった。黙り込む園美に、さすがの伯母も言い過ぎたと思ったのか、「おばさんは園美ちゃんが心配だからわざとキツいことを言ってるのよ」とフォローしてきたが、ほとんど脳みそに届かなかった。
何と言って通話を切ったかは分からない。携帯電話が、コタツ布団の上に落ちる。
足先が冷えて痛いので、コタツに潜り込んだ。
窓の外は、まだ雪が降っている。
通行人の雑踏や会話、除雪するスコップの音が遠くに聞こえる。
ほとんど無意識にネタ帳を開いた。クロッキー帳も出して、編集部に提出する新作の企画書に取りかかる。
次の作品を作らないと。
どうにかして仕事をもらわないと。
漫画家で在り続けるために。
だが、ロクなアイディアが浮かばなかった。書き損じた紙だけが増え、丸めた紙が散らかった室内に散乱する。
鉛のようなため息を落とすと、外が暗いことに気づく。
もう夜だった。……いつの間にかに。
時間だけが流れていく。
今日一日、私はいったい何をしていた?
時間が無駄に過ぎていく。
言いようのない焦燥感が、頭の芯を痺れさせた。
伯母の主張に同意したくはないが、確かに人間にも期限がある――と思う。
特に漫画家の類いは。いつまでもくすぶって目を引く実績を作れないでいると、読者にも編集にも「その程度」だと認知される。
「いつか面白いものを生み出すのでは」という将来への期待感が、どんどん薄れていくのだ。
それは、致し方のないことだった。
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