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「ねえ、穂高兄。冬館は御山様のお宿なのかな」
「そうかもしれない」
兄弟は母屋で布団に入ったはいいものの、眠れずにいた。見たことのない冬館に入れたが、肩透かしを食らった気分だった。
しかし、昼間散々遊んだから兄弟はやがて寝入ってしまった。
年が明けて、深山亭で滞在が残り半分になった頃。雪が降り始めた。細かい雪だ。しんしんと静かに雪は降り続けた。
三日経っても雪がやむことはなかった。兄弟は不安に思ったが、祖父母はよくあることだと言って笑った。御客様も来ることができないというのに祖父母は忙しそうにしているのが不思議だった。
その日の晩。
兄弟は布団に入って一度は寝入ったが、物音に目を覚ました。雪を踏みしめる音がしたのだ。寝間着のまま、兄弟は廊下に出て窓を開けた。
「穂積、あれ」
穂高が指差したのは足跡。九つになる穂積が寝そべればすっぽり入ってしまうような大きさの犬の足跡。
「犬…?」
「穂積、冬館に行ってみよう」
裸足のまま、兄弟は母屋を抜け出した。
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