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深山兄弟出立
深山穂高は十歳。
深山穂積は九歳。年子の仲の良い兄弟である。
二人は子どもだけで夏休みに祖父母の元で過ごす予定だったのだが、穂高が夏風邪を拗らせて延期になったのだった。そのため、この冬休みをまるっと祖父母の元で過ごすことになった。
祖父母は山奥で深山亭という旅亭を営んでいる。旅亭といっても知る人ぞ知る隠れ家的な宿で、要予約の上、受け入れるのは一日に多くても三組ほどである。今は祖父の満穂が板前を務め、女将を祖母のつゐが務めている。その他に板前見習いの小野田政太という若者と、穂高と穂積の従兄弟にあたる幸穂がいるだけである。
終業式を終えた翌日に兄弟は父、昭穂の運転で深山亭まで連れて行ってもらった。峠を越え、トンネルを抜けたら兄弟の背丈ほども雪が積もっていた。兄弟の住む町も雪は降るが、ここまでではない。
「雪だるま作ろっ」
「雪合戦もしよっ」
昭穂は子供の頃を思い出し、懐かしみ、雪遊びができる兄弟を少し羨ましそうにした。
「かまくらもできるぞ。立派なのを作れたら中でみかんやお汁粉が食べられるぞ」
「みかん!」
「お汁粉!」
両親と離れて過ごすのは初めてだったが兄弟は期待で胸を膨らませて、寂しがらないので昭穂は複雑な気持ちだった。
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