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 夕暮れの裏路地に飛び出した道隆は、淡い影の射す寂れたビルの一角を振り返った。  毒々しい看板の立ち並ぶ飲み屋街のひと隅は、そこだけが異空間のようにひっそりと沈んでいる。  クラシックオークの古びたドアがある。  店を宣伝する看板はなく、明かり取りの窓だけが、その店を知る者にだけ開店中を知らせるのだ。  金縁の小さなプレートは擦り切れて、文字も判別できない。  『Whirly Bird』 「ヘリコプターか」  道隆は小首をかしげて立ち止まる。  ビッグバンドジャズの賑やかな曲を思い浮かべながら、ひっそりとした店とのギャップが面白いと小さく笑った。  テンポ270のハイスピードジャズだ。  その中にある哀愁のグルーブを、あのバーテンは知っているに違いない。  それはどこか、人の人生に似て慌ただしくも切ない一瞬だ。  ヘリコプターの羽のようにクルクル入れ替わる人間模様を、無表情で見据えているのだろうバーテンの、ほの暗く鋭い目を思い浮かべて、道隆はまた呟く。 「気に入った」  まだ少年の色を残すしなやかな体が、赤黒い夕焼けに染まりながら、薄汚れた路地裏を駆け抜けた。
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