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駅前の歓楽街から、さらに入り組んだ裏路地にひっそりとあるバーは、大抵は堂々と看板を出せない稼業を営んでいる。
ジャズバー”ホワイリー・バード”も、そんなひっそりした飲み屋の一つだ。
無口でいかついバーテンが一人。止まり木に5人と、2テーブル。10人も入れば息苦しい。
もっとも、満席になることは皆無だ。それでも店内はいつも清潔で、カウンターは磨かれた艶がある。
曜日ごとの常連客が4~5人、入れ替わり立ち代り現れては消える。
そんな店には、なぜか男しか入ってこない。
そっけないドア一枚のバーは得体が知れず、確かにバーテンの目つきは悪い。
特に賑わう様子もないかわりに、うるさい女の嬌声もない。
静かに酒を舐め、ぼんやりとジャズに浸り、時に、気に入った男を見繕って出て行く。
独りが別段寂しいわけでもなく、カップルが出来上がった所でめでたくもない。
バーテンの作る、気の効いたツマミと、美味い酒と、疲れを癒してくれる音にたゆたえば、それだけで、この店の価値を評価できる。
そんな常連客が多いのも特徴の一つ。
そして、静かさを味わえない酔客が、無防備にバーの扉を開けようものなら、人相の悪いバーテンに、思いっきり睨まれる。
新規の客を、望めるはずもない。
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