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「お前、名前は?」
「道隆。あんたは?」
「真樹だ」
「気に入った」
「そりゃどうも」
片手を上げて軽やかに出て行く。
ドアの軋む音までもが爽やかに響くようだった。
入れ替わりに入って来た、今夜最初の常連客は若者を振り返り、ひょぉ~♪ と口笛を吹いて目を丸くした。
「何だよ今の美形、逃がしたのか?」
「喫茶店と間違えて入って来たんだ。コーヒーを飲んで出て行った」
「例のクソ苦いヤツ? げ、飲み干してやがる」
止まり木に残っていたカップを覗き、苦そうに眉を顰める。
そう言えば、この男もココへ初めて来た時はガキだったと思い出した。
常連客に連れられてやって来て、甘いカクテルを飲み、頬を染めて違う客と連れ立って出て行ったのは3年前か。
あの頃はまだ、初心な目をして俯いていたのに。
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