ミキ。

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ミキ。

ピアノの前奏が始まる。 イクがミキの所にスタンドマイクを持ってきた。 ミキの甘く透き通った声が耳を擽ぐる。 ココロが蕩けてなくなるんじゃないかと 思うくらいのバラード。 ミキの声はどこまでも甘く切なかった。 聴き取れた英語の歌詞は ~貴方といると天国にいるみたい~ という繰り返されるフレーズだけだった。 でも『愛の唄』というコトは分かった。 ミキの演奏が終わると大歓声。 拍手と叫び声が収まらない。 ミキがマイクを手に持ち立ち上がった。 「ラスト」 一言言い放ち最後の曲が始まった。 イクとミキの掛け合いがある曲。 先程の甘く切ない声とはうって変わり 胸に刺さるくらい通る声。 スタンドマイクで歌うイクの周りを走り跳ねながら歌うミキ。 あんなに動いて息も切れない。 圧倒的だった。 今日聴いたどのバンドもジャンルは様々だけど、ホントに心地よく素敵な演奏だった。 でも 『b-moon』は違った。 会場の皆んなが帰らない理由が分かった。 会場の皆んなが求めるモノが分かった。 物事をいつも冷めた気持ちで見ていた俺が 初めて興奮し、自分から求めたいと思った。 『b-moon』はそんなバンドだった。 演奏が終わり、メンバーがステージに集まる。 ショウは入ってきた時と同じく ハヤと肩を組んで手を振っている。 イクはミキの腰に手を回し抱き寄せている。 4人に観客は大興奮だ。 イクがミキのサングラスを外してキスをした。 会場が今まで以上に興奮している。 「皆んな、またね」 イクはミキを抱き抱えたままステージを去った。 「またな」 ショウとハヤもステージを去った。 ソデに入る直前にイクの腕の中から 会場を振り返るミキが見えた。 ペコリと小さく頭を下げた……ふうに見えた。 イクに抱えられてて、よく見えなかったけど。 その時、ちらりと見えたミキの瞳は 蒼色だった。
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