第二章  凶賊【赤猫】・参上

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 いつも鬱陶しいくらいに力に溢れていた辰治の今の姿が、信じられないくらいに痛々しいとお吟は思った。  「良晏先生、辰治さんは大丈夫なの」  心配そうに聞くお吟に、良晏先生が笑って大丈夫だと太鼓判を押した。  「失恋の病は熱病のような物じゃよ。忘れる時がくれば、全快じゃ」  時薬だと笑った。  (ーそうなのかー)経験がないから、素直に聞きいった。  お吟も失恋をした。  ずっと憧れて来た小頭の佐吉に、二世を誓った恋人がいたのは大変なショックだった。  だがそれは憧れで、本気の恋じゃないから立ち直りも至って早い。  今ではアッサリと乗り越えて元気一杯。  それに引き換え、哀れな今の辰治だ。  「お昼ご飯は江戸の三白。豆腐と大根だからねぇ」  お吟が鬱々と過ごしている辰治を、サッサと食べに来いと呼んでいる。  「ウッるさい女だな。聞こえてらぁ」  面倒くさそうに、辰治が返事をする。  仕方なさそうに、御膳に向う。  そんな繰り返しの中で、十日の日々が過ぎて行った。  「おい、お替りだ」  茶碗をつっけんどんに突き出して、御膳の料理を残さず平らげるようになった辰治の様子に、お茂は涙をこぼした。  「お吟ちゃん、ありがとねぇ。あの子がもとに戻ったよぉ」  はらはらと、涙が止まらない。  やっと左文字組は、跡取りの辰治を取り戻したのだった。
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