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一月も半ば、小寒の次候。
一年で一番寒い季節がら、出歩く人の姿もない寒い夜の事だった。
深川の古寺の本堂にその夜、凶賊【赤猫】の頭目が手下を集めた。
御三家筆頭・尾張徳川家の城下町である名古屋で、チョットした火事騒ぎに紛れて(いそぎ働き)をすると、そのまま江戸に舞い戻って来たのである。
「お帰りなさい。お頭」
色っぽい声で迎えたのは、あの美代鶴だった女。今では、深川で船宿“泉”の女将・小春を名乗っている。
練馬の出で、借金を抱えていた芸者の小春から、五十両で信濃屋が人別を買ったのだ。
「お前と離れてなどいられないよ。私が江戸に居られるように手を回すから、一緒に居ておくれな」
信濃屋に取っては、五十両など大した金子では無い。以来ずっと信濃屋に囲われている。
相変わらず、溢れる様な色香だ。
「久し振りだなぁ、美代鶴。いや、今は小春か」
頭巾の男が、低い含み笑いを洩らした。
一味は全部で三十人だ。
一渡り、ねめつけた。
「お帰りなさいやし」、頭を下げて前に進み出た男に、頭目が労いの言葉をかける。
「権左もようやった。お前のお陰で、大岡越前の奴は、【赤猫】を始末できたと思っておるだろう」
「こいつは手間賃だよ。とっておきな」
切り餅を一つ、男に投げて遣る。
受け取った男の顔が、灯明に浮かび上がった。
そう、その男こそ伊三次の下っ引き。
辰治と左文字組の鳶たちを夜回りに誘い、火付けをしようとしていた臥煙に出くわす段取りを付けるのが、権左の役目だった。
逃げる臥煙を追って、火消し屋敷に辰治を導きながら、闇の中で臥煙を見失わせると言う難しい業を見事に果たした。
あの一事が在ればこその、御庭番の登場だったと言える。
「さすがはお頭だぁな。あんな算段は、そんじょそこらの盗人にゃぁ、できやしねぇ」
権左が、頭目におもねった。
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