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「相変わらず、恐い女だなぁ。お艶が姉さんでよかったよ」
権左がお艶を見て、さらに呟いた。
「左文字組の辰治はよぉ。処払いになったお前ぇを追って、平塚宿まで行ったんだぜ。それも勘当覚悟でよぉ」
ふっふっ、とお艶が楽しそうに笑った。
「其処でお前ぇが、信濃屋の隠居と出来てるのを見ちまったわけよ。江戸に帰ぇって来るなりよぉ、高い熱出して寝込んじまったのさ」
「床を離れても、暫くは鬱々としてたね。そりゃぁ左文字組の頭が、やきもきと心配したもんよ」
「お前ぇも、罪つくりな女だぜ」
伊三次の子分だから、辰治の事はよく知っている。
権左の言葉に、また楽しそうに微笑んだ。
「そいつは勿体無い事をしたねぇ。ちぃとは摘み食いをして置くんだったよ」
「あれで辰治って漢は、粋でいなせで床業も中々のもんだったからねぇ」
色っぽい含み笑いを洩らしたお艶に、銀次が釘を刺した。
「おい、お艶。惚れた腫れたは金輪際ご法度だぜ。そこんところは大丈夫だろうな」
「アタシを誰だと思ってるんだい。【赤猫】の頭の娘だよ。茶々を入れるのは良しとくれ」
軽くにらむのも艶っぽい。
「こりゃぁよぉ、辰治でなくったっていっちまわぁな」
「クワバラクワバラ」、茶化して権左は伊三次のもとへ帰って行った。
「次の繋ぎまでは大人しく、信濃屋の隠居で我慢するんだぜ」
頭目が緩い笑いを浮かべて、言い含めた。
凶賊【赤猫】が今迄、お上の手を逃れて無事に逃げおおせて来たのも、罪を押し付ける相手を用意して来たが故。
お艶はイイ女だが、一人の男では我慢できない業の深い女だ。
釘を刺しておかねば、心配だった。
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