第二章  凶賊【赤猫】・参上

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 そんな訳で、お吟は暇を持て余している。  伊三親分の店に手伝いにも行けず、面白い捕物話の盗み聞きが出来ない。  「本っ当に、詰らないんだからぁ~」  ついため息が漏れる。  そこで仕方なく暇をつぶすために、大奥から帰ってからの月日を年表のように書き出してみたのである。  昔、父の与左衛門が同心であったころ、こうして事件を書き出していたのを思い出したのだ。  まず最初に、【赤猫】の噂を聞いた所から書き出した。 一・大奥から帰って十日目。  左文字組の頭が教えてくれた。(その頃、美代鶴に夢中だと言う辰治の噂を、何となく聞いたような気がする) 二・大岡越前さまの事を、夕餉を食べながら兄の圭吾に聞いている時にも、【赤猫】が話題になった。(兄様が嫌な顔をしたので、仕方なく中断) 三・翌日には、幼馴染みの見習い同心たちを集めて、【赤猫】の事を詳しく聞き出した。 (でも、これと言った情報は無かった) 四・伊三親分の飯屋を手伝いながら、伊三次と下っ引きたちの話を立ち聞きした。 (目撃者がいて、火付け犯人の人体の特徴を知ることが出来た。頬に刀傷のある男が浮上したのだ) 五・辰治と左文字組の夜回りが、火付けの犯人に遭遇。 (伊三次の子分・権左と辰治が後を追うが、火消屋敷の近くで見失った。左文字組の鳶職が、犯人に刺された) 六・小頭の佐吉の案内で(佐吉の恋人、芸者の勝乃が知らせて来たおかげ)辰治の想い人の美代鶴と旗本との逢引きを、佐吉と勝治と吟の三人で小料理屋“梅若”の庭に潜んで盗み聞き。 (美代鶴の逢引きの相手が、直参旗本の長内佐兵衛と判明) 七・突然に町奉行所に火付けの犯人が捕まった。直ぐにお裁きが下り、火刑が決定。 八・定火消しを監督していた旗本の一人、長内佐兵衛が急死。【赤猫】を操る張本人が長内佐兵衛だと判明したらしいが、その後の詳細は不明。 (そして何故か奉行所では、【赤猫】事件はうやむやの内に決着した事になった) 九・長内佐兵衛との関係から、町奉行所から美代鶴が処分を受けた。(江戸十里四方の処払いを言い渡されたのだ) 十・美代鶴を追って、平塚宿まで出向いた辰治が、信濃屋の隠居と一緒の美代鶴を発見。 (ショックのあまり高熱を発して寝込んだ)
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