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吉宗さまのリストラ作戦のお陰で、お吟がこんなに早く帰ってこれたことに、与左衛門は感謝していた。
「赤猫のことは、ワシも気に為っておるのよ。ウチの岡っ引きどもは、まだ何にも嗅ぎ付けては居らぬのか」
南町奉行の月番は来月からだが、飼っている岡っ引きをあちこちに奔らせて探らせている圭吾である。岡っ引きは、父の代から使っているベテラン揃いだ。
既に十月も半ば。なかなか尻尾が掴めないことに圭吾は苛立っていた。
それに町奉行の大岡様は、上様から火消しの体制を強化するように仰せつかっているらしい、と奉行所でも噂が飛び交っている。
「如何やって強化するのだろう」、と半信半疑で、様子を遠巻きにして見ていた。
「定火消しを扱うだけでも大変な作業じゃのに、新しい火消しの立ち上げなど鬱陶しいことこの上ないわ」、吟味与力がウンザリしていると聞き込んでもいる。
「家に帰ってまで、話題にしたくないのに。エイッ、お吟め。うるさいわ」、憤った兄の様子に肩をすくめた。
竦めたが、諦めたりはしない。
明日は(手習い所時代の子分)、奉行所に見習いに出ている同年代の八丁堀の子弟を捕まえて、早速に事情徴収だ。
心の中で、明日の標的に見当をつけた。
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