第三章  【赤猫】VS・お吟ちゃん・

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 4・  裏返した法被を羽織った。  辰治の法被の裏地には、見事な桜吹雪が舞う。  組頭の辰治を先頭に、町火消しの“い組”の凱旋である。町内の喝さいの中、晴れがましい時を迎えて、“い組”の臥煙たちは少し照れていた。  朝になって、火事場から凱旋してきた左文字組の面々を、お茂が炊き出しの飯と汁で出迎えた。  「お前さんも辰治も、風呂の用意がしてあるよ。サッサと入っとくれ」  大きなたらいに湯を張った風呂だが、江戸っ子はまず身だしなみだ。  多少の火傷など、気にしちゃぁ居られないのが、江戸の漢。  「親父、先に入ってくんな。おいらはお吟のところにチョット行ってくらぁ」  お吟は左文字組の者たちに担がれて、昨夜のうちに運び込まれた。お茂の監督のもと、勝治の手当てを受けた後で、座敷に寝かされている。  座敷に入って来た辰治に気付いて、慌てて布団をかぶった。  恥ずかしくて堪らない。  「布団の中で、寝た振りはよしねぇ。止めねぇと襲っちまうぜ」  布団の端を被って、恥ずかしがって隠れていたお吟が、小さな声で言った。  「怒ってるよね」  「ああ、ものすごくな」  声が笑っている。  「この撥ねっ帰りが。あんな所で何をしてやがった。正直に言いな」  「怒らねぇからよぉ」  優し気な辰治の言葉につい気を許してウッカリと、船宿まで美代鶴を救おうとして行った話しや、“赤猫”の手下に捕まって縛り上げられた話をしたから・・・さぁ、大変!  「この大馬鹿娘がぁー!」  「なんて考えのねぇ事をしやがるんだッ。おいらが間に合ったから、助かったようなもんのぉッ。もう少しで焼け死んじまう処だったじゃねぇかあー!」  辰治の大きな罵声が、雷のように屋敷中に響き渡り、お吟は震え上がった。  いきなり布団ごと抱き取られると、青筋を立てた辰治の顔が目の前に迫る。  「ごめんなさい」、上目使いに盗み見る。  「もうしませんから許して…うウ~」  全部言えなかった。  辰治が骨が折れるほど強く抱き締めて、唇を奪ったのだ。  その怒りに燃えた口づけに、酸欠を起こして意識は朦朧。  スッカリ怯えたお吟だった。
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