第三章  【赤猫】VS・お吟ちゃん・

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 (あとがき)  春もうららかな、春分の候。  もう三月も半ばを過ぎたと言うのに、左文字組の屋敷から一歩も出して貰えないお吟が居た。  お茂の見張りは、とってもキビシイ。  「いいかい!アタシの乳はそりゃぁ栄養満点だから、アンタは丈夫で元気な娘に育ったよ」  「其れでもねぇ。いいかいお吟ちゃん、よぉっく聞きなよ、・・~長々と云々~・・」  そこから始まって、永遠とも思える長~いお説教をお茂から喰らった。  然も、『この度の褒美として、左文字組の望みをかなえ、辰治の嫁に矢島吟を下げ渡すものとする』、なんて言う大岡越前の裁きが下ったから堪らない。  大喜びのお茂は、早速、白無垢やらお色直しの着物やらと、大騒ぎしている。  与左衛門夫婦は、口をはさむ余地も無い有様だった。  しかし当のお吟は、いたって複雑だった。  辰治は好きだが、辰治がお吟を如何思っているのか今一つ分からない。  お吟は辰治が美代鶴の死を、どう受け止めているのか心配だった。  お艶は手下を連れて、葦わらの中の小屋までたどり着いた。  「お前達、これから中山道を抜けて大坂に逃げるよ。いいね!」  金を取り出して振り向いたお艶の身体を、二人の手下が押し倒した。  裾が捲られ、男達の獣欲に塗れた手がはい回る。  「何をするんだい、お放しよぉ」  暴れるお艶を羽交い絞めにして、男たちが笑った。  「いつまで親分風を吹かす気でぇ。テメェはもう、ただの雌犬よぉ」  「可愛がってやるから、大人しくしろい」  帯を引き抜き、着物を剥ぎ取ると、男たちは容赦なくお艶を一晩中慰みものにした。  明け方。  力なく横たわるお艶を、道中の足手まといだとばかりに、男たちは情け容赦なく絞殺したのである。  昼をとうに過ぎた頃、小屋に捨てられていたお艶の死体を、【赤猫】の探索に当たっていた岡っ引が見つけた。
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