柊子の想い

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 いくら許嫁だからといって、何の名目も無しに男の人と夜遅くまで一緒にいたら「恋愛にうつつを抜かす堕落女学生」などと世間の人たちから後ろ指をさされてしまう。柚希も不良学生呼ばわりされて困るだろう。  小説の世界で恋愛の素晴らしさが叫ばれ、それを読む柊子ら乙女たちが殿方との夢のごとき逢瀬(ランデブー)に憧れても、大人たちの価値観はいまだに十九世紀。恋愛なんて不良がやる軽薄な火遊びだとしか思われず、逢瀬(ランデブー)をしているところを学校の先生にでも見つかったら、大目玉を食らうだけでなく閻魔帳(えんまちょう)(通知表)に大いに響くはず。  でも、親戚の付き合いで一緒にいるのなら問題は無い。柊子は、クリスマス・パーティーで親たちがダンスを楽しんでいる隙に、柚希にマフラーをこっそり手渡そうと考えていた。 (サンタクロースのお爺様。柊子は大人ですからお人形はもういりません。その代わり、柚兄様が柊子のことを一人の女の子として見てくれるようになりますよう、どうかお見守りください)  柊子は心の中でそう祈りながら、ひと編みひと編み心を込めてマフラーを編んでいくのだった。  そう、柊子はもうすぐ大人。来年には結婚できる年齢になるのだ。いつまでも、許嫁に子供扱いなんてされたくない……。
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