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柊子は、髪を純白のリボンで束ねて上部や左右をふわりと膨らませ、後ろにたらすという束髪くずし――この時代の女学生がよくしていた髪形である。
そして、銘仙の着物は淡い桃色地に色とりどりのプリムラの花の刺繍がちりばめられ、半襟は赤い薔薇の柄。袴は濃い緑の柚葉色だった。
「学校の徽章が袴の腰紐で隠れているじゃないか。きちんと見えるようにしないと、先生に叱られるぞ」
後ろで男の声がして、柊子はムッとなった。意地悪な長兄か次兄が朝っぱらから妹をからかおうとやって来たのだと思ったのだ。
「分かってるもん。ちゃんと直すもん」
そう言った柊子は頬を膨らませながら、背後に立っている長兄か次兄の姿を確認しようと鏡を見た。しかし、そこにいたのは――。
「ゆ……柚兄様!?」
鏡に映っていたのは、優しげな眼差しで微笑んでいる詰襟学生服姿の柚希だったのである。
柊子は、沸騰したように顔が真っ赤になった。柚希の前ではなるべく大人っぽくお淑やかでいようとつとめているのに、うっかり子供っぽい態度を取ってしまった……。死ぬほど恥ずかしくて、穴があったら入りたい。
「どうした、柊子? 早く直して朝ご飯を食べないと、遅刻してしまうよ?」
柊子があわあわ言いながら固まっていると、背の高い柚希は柊子の前にしゃがみこんで、真ん中に結んであった袴の腰紐をほどき、おへそのあたりにある徽章が見えるように右脇に結び直してくれた。
メイデン友愛女学生では、バンド型の徽章を袴の腰に佩用するように女学生たちに義務づけていて、柊子たち女学生は学校の徽章がついたこの真田織のベルトをメイデン友愛女学生に所属している証だと思って喜んで身に着けている。ただ、たまにうっかり帯び忘れて登校したり、腰紐で徽章を隠していると、先生たちに怒られるのだ。現代の学生たちが学生服に校章のバッジをつけていないと叱られるのと同じである。
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