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柚兄様が優しくしてくれるのは嬉しい。
でも、その優しさが、私を子供扱いする心から来ているのなら、不安。
いくら背伸びして頑張っても、撫子姉様のような大人びた女性になれる気がしないから……。
「…………柚兄様。あ、あの……」
柚兄様の気持ちを確かめたい。
でも、私のことを好いてくれていますかなどと女である自分からたずねるのは恥ずかしいし、柚兄様にはしたない女だと思われたら嫌だ。
柊子がいまだに赤い顔を着物の袖で隠しながら「あの……あの……」と呟いていると、気の長い柚希は柊子と同じ目線になるよう腰をかがめた体勢で「何だい?」と言って微笑んでくた。
(私に笑顔を向けてくれるのは、とっても嬉しい。……でも、私のことを子供だと思って……妹扱いして優しくしてくれているのなら、嫌……)
柊子は、少し病弱で青白い柚希の整った顔を袖越しにチラチラ見ながら、そう思った。せっかく朝から会えたのに、何か話さなきゃ……。
「おい、柚希。玄関で何やっているんだ? そろそろ出かけないと、遅刻するぞ」
なんと間の悪い兄だろう。柊子が柚希に何も言い出せない内に、柊子の長兄が現れて柚希にそう声をかけた。長兄の後ろにはまだ眠たそうにあくびをしている次兄もいる。
柊子の二人の兄と柚希は同じ麻布の中学校に通っていて、長兄と柚希は同級生なのだ。
「君たちの支度ができるのを待っていたのに、その言い草はあんまりだなぁ。いつも遅刻ぎりぎりで登校していてる君たち兄弟のことをご両親が心配して、僕に毎朝息子たちを迎えに来てやってくれないかと頼まれたのにさ」
柚希はクスリと笑ってあまり気にしていない様子だが、それを聞いた柊子は恥ずかしいやら申し訳ないやらで顔をうつむかせた。愚兄たちは私の将来の旦那様に迷惑をかけすぎだ、と思ったのだ。
「……柊子、何か話があったんじゃないのかい?」
柚希は少しずらして被っていた学生帽をきちんと被り直すと、柊子のことをまだ気にかけていてくれたらしく、穏やかな声音でそう聞いてくれた。
「……い、いえ。何でもありません」
柊子はうつむいたまま蚊の鳴くような声で答えた。二人っきりの時でさえ聞けなかったことを兄たちの前で言えるはずがない。
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