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ナミはとにかくお金が必要だった。あの母(ひと)に頼らず、生きるために。
スマホに表示された時刻は20:50。少し遅らせたほうがいいが、そこは調整しよう。
ナミが階段を下りてリビングに出ると、以前にも増して太った母と、いつもすっきりとした顔が逆に不気味な女性「占い師」が、白装束を着て正座をして並び、「おいのり」をしていた。
幾ら出して買わされたのか分からない神棚にろうそくを立てて、両手で孔雀のような妙な形を作って、なにやら唱えている。
「おやまとさま、ありとまや。おまやとさま、ありとまや……」
吐き気がするし、神棚をぐちゃぐちゃにして2人まとめてボコボコにしてやりたい衝動を孕んだ顔で2人を見下ろす。実際、トラに何度か頼んだことがあるが、面倒だからと断られた。
「おい、クソ共。ちょっと出てくるから」
母と占い師はこちらを完全に無視して祈祷に没頭している。
外に出たナミは、家と家に挟まれた細すぎる我が家を見上げた。3階の兄の部屋の窓にテレビの明滅が映っている。
また一人でなにやら喋りながらゲームをしているのだろう。最近ゲーム実況にでも目覚めたらしいが、もう何年も口をきいていないし、興味もない。
さあ、行くか。
相手が柔道とかラグビー経験者のようないかついタイプだったらスルー。でもそのパターンは経験上少ない。
これまでのように、ひ弱なロリコンおやじでありますように……。
向かう場所は51番E。四国八十八か所巡りの札所51番「石手寺」の東側だ。
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