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怒りに任せて近づいたものの、その光景を前にプルはあと一歩踏み出せなかった。トラと違ってプルはガタイだけで、実は喧嘩したことすらない。後ろを振り返ると、ガードレールの側に寝かせておいたナミが、上体を起こしてこちらを見ている。
プルは勇気を振り絞った。
「ぉお、おいおっさん!俺もいるぞ!こっちは2人やぞ!」
気合いでせめて声だけ出してみた。すると「お前も死にてえのか!弾、無駄にしたくねえってのに」と、おっさんが銃でも持ってるようなことをプルに言い放った。トラはその隙を見逃さなかった。
ゴッ……。
固いものがぶつかり合う時特有の音がし、おっさんが膝をついた。
トラが金属バットで、おっさんの頭を殴った。
「このガ……」
おっさんが言い終わる前に二撃目が振り下ろされ、おっさんが地べたにぐしゃりと伏した。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
トラが肩で息をしながら、動かないおっさんを見下ろしている。
プルはそこでようやく足が動き、トラと倒れたおっさんの側に駆け寄った。
「おい、やったん……?まさか、殺したん……?」
プルは倒れたまま動かないおっさんを注意深く観察する。薄く呼吸をしているようにも見えるし、動いていないようにも見える。
頭に黒々とした傷は見えるが、暗いのでどの程度の傷なのか分からない。
「トラ!はよ逃げんと……はよ!」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
何も言わないトラを引っ張ってナミの所に戻ろうとすると、ナミのほうが、痛めた足を引きずりながらおっさんの側まで来ていた。
「この…………!」
ナミが怒りに任せておっさんの股間を蹴りあげようとして、軸足に力が入らず派手に転んでしまった。パンツが丸見えになる。恐怖で漏らして汚れていて、エロさよりいたたまれなさで、プルは目を逸らした。
「……トラ。おれの単車じゃボロくてナミは乗せれん。お前のに乗せてってくれ」
トラは震えたまま無言で頷きもせず、しかし聞こえてはいるのか、よろよろとスクーターへ向かった。
ナミは半泣きでぼろぼろの顔のまま、よたよたトラの後ろに付いていく。
2人が走り去っていくのを見送り、プルは地面に転がるこのおっさんの前で立ち尽くした。大型トラックと死体。ブレーキ跡と血。これらの始末をどうすべきか、見当もつかなかった。
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