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プル 2
もしかしたらトラはもう雲隠れして来ないかとも思ったが、いつものたまり場である石手川の橋の下に、トラは小走りでやってきた。シャツでくるんだ細長いものを抱えている。
「トラ……大丈夫か。てかそれ昨日のバット?はよ始末せんと……」
「それよりどういうことや、これ」
トラがニュースが表示されたスマホを見せた。
愛媛の違法産廃処理場で大量虐殺
プルが教えたニュースだ。
石手川ダムの更に奥にある、やくざが経営している産廃処理場で、従業員33名が「銃のようなもの」で殺害されているのが発見されたというネットニュースだ。記事はやくざの抗争が原因ではないかと推測している。
「これって……昨日のあのトラックの会社?」
「ほうや」
記事にある「オオキ産業廃棄物」の文字が、おっさんが乗っていたトラックと、ウインドブレーカーにあった文字と重なる。
「よう分からん。昨日のおっさん、ああ見えてやくざで、襲撃に向かう途中やったんか?そんな感じには見えんかったけど……」
「知らんて。でも、だとしたらめっちゃラッキーやん」
軽く言うプルに、トラがキレ気味に掴みかかった。
「『ラッキー?』よう言えるなプル。お前らのせいで……!」
プルは怒りの矛先を変えるべく、慌てて言った。
「昨日のアレも、この事件の一部と思われるに決まっとる!」
「そんなうまいこと…………」
プルを掴んだまま離さず、トラが再びニュースを読み返す。
「日本の警察なんてアホや。こと愛媛県警は」
「……………」
トラはニュースの記事を何度も読み直して考えている。
「どっちでもええやん」
「……何?」
ジャージ姿で橋げたに寄りかかっていたナミが、昨晩の傷が残った痛々しい顔で言った。
「あんなおっさん、死んでもええやん。やくざの下で仕事してた連中の一人でしょ?死んでも誰も泣かんわ」
「てめぇ……」
トラがナミに詰め寄った。脇に抱えていたバットが地面に転がり落ち、生々しい血跡が露わになる。
「そもそもてめえらが勝手にやったのが原因だろうが!お前も殺すぞクソビッチが!」
「…………いいよ」
「あぁ?」
「アタシ、トラになら殺されてもいい」
潤んだ瞳で、ナミが言った。
「前から言ってんだろうが!お前みたいな陰キャ、ヘドが出るわ!」
「知ってるよ。でも好きやもん。仕方ないやん」
「クソブスがっ!」
トラがナミを突き飛ばした。ナミはへなへなと地べたに座り込んで、声を出さずはらはらと泣いた。プルはどんな声を掛ければよいのか分からず、トラとプルを交互に見るのが精一杯だった。すると、サイレンのような音が上のほうから近づいていた。
「う~~~~~う~~~~~う~~~~~」
「!?」
プルとトラが、目玉をひんむいて周囲を警戒する。
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