3/14
前へ
/14ページ
次へ
とても懐かしい感覚だ。気が付くと顔がほころんでいた。 「何の用意もしてないけど…まあ、入れよ。朝飯ぐらい出す」 「で?今日は一体何の用で来たんだ?仕事はどうしたんだ」 3人でパンと紅茶だけの質素な食事を済ませた後、俺は如月に尋ねた。如月は紅茶を飲みながら、チラリとテレビを見る。 「それについては…あ、ちょうど始まった」 何がだよ、という言葉はテレビの音によってかき消された。 「速報です!昨夜、超人気俳優の如月蓮也さんが無期限の活動休止を発表しました」 テレビの中で如月が主演の連続ドラマの映像が流れる。俺は驚いて、目の前にいる当の本人の顔を見つめた。 「活動休止?お前一体どうしたんだよ」 「そうよ、如月くん。ドラマはどうしたの?」 「ドラマは昨日撮り終えたんです」 如月は少し困ったように微笑み、そう返した。 「何やってるんだよお前…今が大切な時じゃないのか?」 如月は17の時、一人で上京してきて小さな劇団に入った。天才的な演技力を持ちながらもなかなか陽の目を浴びなかったが、ここ数年でようやく注目され始め、こうしてドラマの主演を任されることも増えてきたのだ。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加