0人が本棚に入れています
本棚に追加
俺がまくし立てると、如月は困ったように笑う。
「うーん、まぁそうなんだけどね」
「何か理由でもあるのか?」
「…うん。実は君に頼みたいことがあって。聞いてくれるかい?」
すっかり冷めきった紅茶を飲み干し、やけに真剣な顔でそうつぶやいた。
「美香は友達と旅行に行った。明日まで帰ってこない」
「そうか。あまり他人に聞かせられない頼みだからね、ちょうど良かった」
美香を見送った後、2階の自室に彼を連れて行った。俺のベッドに図々しく胡坐をかくので注意してやろうと思ったが、そんな雰囲気じゃなかったのでやめた。
「あんまり時間がないから、単刀直入に言うよ」
如月は凛とした表情で俺を見つめる。そのあまりの気迫に、思わず蛇に睨まれた蛙のように身を小さくする。俺はこれから、とんでもない頼み事をされるんじゃないか? 直感的にそう感じた。
「僕の顔を、めちゃくちゃに壊してほしいんだ」
ひどく凍てついていて、聞くだけで全身が冷えるような声だった。如月は冷たく微笑み、容赦なく続ける。
「君はとても切れ味の良い刃物を持っているだろう?それで僕の顔を切り刻んでくれよ。でも痛いのは嫌だ…切る前に僕を深い眠りに誘うような…そんな薬を打ってはくれないか?」
最初のコメントを投稿しよう!