タクシーに連れられて

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タクシーに連れられて

窓の外を眺める。街灯が光の線になっている。外にはたくさんの人々がいて、どの人も白い息を吐いているけど、隣にいる誰かと楽しそうに話している。とてもあたたかそうだ。しばらくすると、光の線がぼやけて滲んできた。滲んだ光はふわふわと大きさを変え、とても綺麗だった。乾いた肌に水滴が流れる。あぁ、私は泣いているのだ。そう思うと鼻の上の辺りがつんと痛くなった。 「お客さんどうされました?」 静かに泣いていたつもりなのに運転手に気づかれてはっとした私はあわてて涙を拭いた。唾をのみ、涙声になっているのがわからないよう準備して「何でもないです。」と答えた。 恥ずかしい。こんなにも惨めだ。普段あまりタクシーに乗らないし、白くて綺麗なカバーがかかった背もたれに体を預けるのは居心地が悪い。運転手が世間話をしているようだが私は全く聞いていなかった。ただ一本の糸が切れるように、今まで耐えてきたものが涙になってこぼれ落ちた。     
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