2/7
前へ
/41ページ
次へ
三体月(さんたいづき)の伝説?」  あたしは、スプーンを口からはなして、ヨウちゃんを見あげた。  自宅カフェ「つむじ風」の窓の外は、すでに真っ暗。ヨウちゃんちの庭のハーブたちも、黒一色で、闇の中に溶け込んじゃってる。 「綾、覚えてねぇ? 学校で、花田(はなだ)市の民話について調べたとき、そういうのがあったじゃねぇか」  あたしの向かいで、ヨウちゃんがクリームスープを飲み干してる。 「あれは、えっと……。四年んときだったか……」 「四年生~? って、二年も前の話じゃんっ!! それに、ヨウちゃんと班がちがってたら、調べた民話だって、ちがってたはずだもん。人の班の調べたことなんて、覚えてるはずないよ~」 「まぁ、そんなもんか……」  あたしの前のテーブルにも、クリームスープが置かれている。それにズワイガニとトマトのクリームパスタに、ダイコンのしゃきしゃきサラダ。  いつものように、小学校の帰りにヨウちゃんちの書斎に寄って。  おしゃべりに夢中になってたら、ヨウちゃんのお母さんが、あたしのぶんの夕飯まで、用意してくれた。  これ、わりといつものこと。  さらに、夕飯のあと、ヨウちゃんのお母さんが、車であたしの家まで送っていってくれるのまで、いつものこと。 「中条(なかじょう)さんに迷惑かけるから、葉児(ようじ)君の家にしょっちゅう行くのはやめなさい!」ってママは怒るけど。ヨウちゃんのお母さんはいつも、ぽっくりエクボをつくって笑ってくれる。 「(あや)ちゃん、葉児のカノジョでいてくれて、ありがとね」なんて、言ってくれる。  いごこちのいい、ヨウちゃんち。  閉店後の店内は、あたしとヨウちゃんの貸切で。  薪ストーブで、炎がパチパチと燃えていて。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加