3/7
前へ
/41ページ
次へ
花田(はなだ)には、冬のある時期になると、空にあがる月が、三つに見えるっていう伝説があるんだよ。で、それを見た者が、月に三つ願い事をすると、願いが叶う」 「ええっ!? なにそれ、すごくいいじゃんっ! あたし、三体月見つけて、『お金持ちにしてください』ってお願いする~っ!!」 「なんだその、夢のない願い事。けど……なんだっけな。さらに、つづきがあったような……」 「つづき?」 「……さぁ、なにかわすれた。まぁいいか。ただ、なんとなく『そういや、三体月があらわれるのはこの時期だな』って、思い出しただけだから」 「……ふ~ん」  窓から月を見ようとしたけど、やっぱり外は暗いばっかり。オレンジ色の店内のあかりが映り込んでいて、外のものは、なんにも見えない。 「ねぇ。ヨウちゃんは、もし本当に三体月があらわれたら、どんなお願い事する?」 「そうだな……。やっぱ。『綾のアホが治りますように』とか?」 「あ~、ヒド~イっ!!」 「ウソだよ。それに……オレは、今がわりと幸せだから……三体月なんて必要ないしな……」 「……え?」  あたしを見つめる、ふんわりあったか琥珀色の瞳。  鼻筋の通った色白の顔に、瞳の色とおそろいの、琥珀色したさらさらの髪。  見とれてたら、きゅ~んと胸、鳴った。  あたし、ヨウちゃんが好き……。  人生、たったの十二年。  されど、十二年。  この恋は、一生に一度の恋。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加