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「花田には、冬のある時期になると、空にあがる月が、三つに見えるっていう伝説があるんだよ。で、それを見た者が、月に三つ願い事をすると、願いが叶う」
「ええっ!? なにそれ、すごくいいじゃんっ! あたし、三体月見つけて、『お金持ちにしてください』ってお願いする~っ!!」
「なんだその、夢のない願い事。けど……なんだっけな。さらに、つづきがあったような……」
「つづき?」
「……さぁ、なにかわすれた。まぁいいか。ただ、なんとなく『そういや、三体月があらわれるのはこの時期だな』って、思い出しただけだから」
「……ふ~ん」
窓から月を見ようとしたけど、やっぱり外は暗いばっかり。オレンジ色の店内のあかりが映り込んでいて、外のものは、なんにも見えない。
「ねぇ。ヨウちゃんは、もし本当に三体月があらわれたら、どんなお願い事する?」
「そうだな……。やっぱ。『綾のアホが治りますように』とか?」
「あ~、ヒド~イっ!!」
「ウソだよ。それに……オレは、今がわりと幸せだから……三体月なんて必要ないしな……」
「……え?」
あたしを見つめる、ふんわりあったか琥珀色の瞳。
鼻筋の通った色白の顔に、瞳の色とおそろいの、琥珀色したさらさらの髪。
見とれてたら、きゅ~んと胸、鳴った。
あたし、ヨウちゃんが好き……。
人生、たったの十二年。
されど、十二年。
この恋は、一生に一度の恋。
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