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「綾ちゃん、おうちまで送っていくわ。車、車庫から出して来るから、ちょっと待っててね」
あたしたちがご飯を食べ終わると、ヨウちゃんのお母さんはお庭に出て行った。
「わ~い! ありがとうございます~」
「綾。外は寒いだろ? 家の中で待っとけよ」って、ヨウちゃんは言ってくれたけど、あたしは玄関のドアを開けて、ハーブのお庭を歩いた。
白い息が、冷たい闇に溶けていくのが、気持ちいい。
夜に目が慣れてくると、ハーブたちが見えてきた。
丸い小さな葉。ネコ草みたいに細長い葉。低木。ハーブってひとことで言っても、いろいろな種類の葉っぱがある。
冬越しできる葉は、小さく刈り込まれてひっそりしていて。できない葉は、枯れて根だけにもどって、春が来るのを待っている。
枯れないでがんばってるレモンバームの葉の上に、銀色のトンボの羽が光ってた。
トンボの羽を背中にはやした、手のひらサイズの女の子。葉っぱにちょこんと座ってる。
顔つきは、あたしよりも数歳おとなびていて、中学生くらいかな。
ヒメ……きょうもいる……。
あたしが近くまできているのに、ヒメは気づいてないみたい。
視線の先は、「つむじ風」の店内に向けたまま。
窓の中ではヨウちゃんが、テーブルの上に白いマフラーを置いて、自分のモッズコートをはおっていた。
ヨウちゃんが動くたびに、ヒメの青い目も、右に左に動く。
もしかして、ヒメ……ずっとここで、あたしたちのことを見てたの……?
なんだか胸が、じくじく痛い。
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